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VOCALOID小説サイト『黄昏の歌』の別館です。 健全な表と違い、こちらはBL・及びR指定腐向けです。 読んで気分を害されたなどのクレームはお受けできませんのでご了承ください。 閲覧は自己責任でお願いします

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ちょっと、寸切れしたので続き
ブログ設定が変わって容量制限が出来て載せきれなかったけど、ここを前編から抜かすとスカスカになっちゃうので追記です。

夜が明けると朝霧の中を白装束の娘がガジュマルの森へと分け入って行った。

首に数珠を掛け、手に大きな神扇を持った娘は琉球の巫女である覡(カンナギ)だ。その覡の中でも高位のノロで琉球一番の霊力を持っていると言われる真百合(リリィ)は言い知れない不安にガジュマルの森の中にある御嶽に向かっていた。

最近本土から来た日本人による霊場御嶽荒らしが増えている。

琉球にも蝦夷地同様、本土とはまた異なる神々が生きている。御嶽はその神がおわす神聖な場所なのに、それを何も知らない日本人が立ち入っては荒らしていくのだ。

特に一番厄介なのはかつて悪さをした悪霊(マジムン)が祀られている御嶽を荒らされる場合だ。一度悪さを働いて退治された悪霊は祀られれば機嫌を直して恩恵をもたらしてくれるが、そこが暴かれたら怒って何をするかわからない。

神託によって目覚めた真百合はガジュマルの森の奥にあるアカマター御嶽に急いだ。

一見すると荒らされた痕跡はないが、霊場の空気が淀んでいる。

何者かが神聖な御嶽に断りもなく侵入した証であった。

祝詞を唱えながら真百合は御嶽の主を起こさないようにそっと中を確かめる。

進んでいくと思ったとおり、日本人の男が御嶽で呑気に寝ているではないか。

「かような場所で何をしておられる。このフラー(バカ者)」

「・・・ん?」

厳しい声で起こされて勇馬はまだ重い瞼をこじ開ける。

目がさめるような白の装束にすぐに巫女だと気づいて居住まいを正す。

だが、彼女の厳しい視線は鋭く勇馬を見据えたままだ。

「お主の出で立ち、本土の覡だな。ここが霊場御嶽と知っての狼藉か」

「霊場?御嶽?こんな気の薄い所が?」

「こ、このフリムン(愚か者)!!よりによってこのアカマター御嶽で夜を過ごすなんて・・・、命が幾つあっても足らんぞ!」

この周辺にはかつて巨大なマジムンであるアカマター(ハブ蛇)が住んでいた。

狡猾で若い美男美女を好んだこのアカマターは家々に忍びこんではマブイ(魂)を抜いて喰らっていたのだという。

この悪行に苦しめられていた住民は当時一番霊力の強かった真茱萸(グミ)ノロに助けを求めた。真茱萸ノロは一計を案じてアカマターに狙われていた姫と入れ替わり、化けて姿を現したアカマターの結い髪に麻糸を通した針を差し込んだ。糸を辿ってたどり着いた先にいたのは八尺もの長さを持つ大きなアカマターだった。

戦いの末、力尽きたアカマターはこの御嶽に祀られることで疫病を撒き散らすヨーラー(カラス)を天敵である自分が追い払ってやると請負った。

それからアカマター御嶽で祀られて以来、ヨーラーはこの辺りで見かけなくなったという。

だが、真百合の話を勇馬は真に受けなかった。

「なんだ。よくある話ではないですか。僕の故郷の近く、奈良の白蛇伝説にも似たような話がありますよ。もう千年も昔の話で、いい加減手垢のついた話ではないですか」

「そなたの故郷では知らぬが、ウチナー(琉球)ではさほど遠い話ではない。真茱萸ノロは私のオバア(祖母)だ。奴が再び目覚めることがあれば、また村の若いのが死ぬ。こんなところにいては真っ先にお前が襲われるぞ」

真百合は怯えていたが、勇馬は懐から事も無げに神社の呪符を取り出した。

「心配ご無用。僕も故郷では名の知れた宮司ですからね。向かってきてくれるならちょうどいい。なんなら僕が退治してあげますよ」

勇馬が自信有りげにそう言ったその時だった。

バサバサっと鳥が飛び立つ音に真百合が空を見上げる。

飛び立ったそれを見届けるなり血の気が引いたように真っ青になった。

「もう・・・、遅い・・・」

「え?あっ!ちょっと・・・!」

勇馬が呼び止める間もなく真百合は一目散にその場から立ち去った。

空を見上げるが今にも泣き出しそうな空模様には変わりない。

不吉な気は多少したが、それよりも真百合に聞かされた古臭い話に興味がある。

琉球も蝦夷地も祭礼に掛けては非常に粗末でとても満足に神を喜ばせられたとは思わない。その点日本本土は千年もの長い歳月を掛けて神々を喜ばせる事に腐心し、そして邪神に抗ってきた歴史がある。

邪神に打ち勝てば英雄だ。

御嶽の真ん中にどっかりと腰掛けて待ち受ける満々の勇馬の背後、岩場の裂け目から昨夜と同じ青い双眸がその後姿を見つめていた。

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