VOCALOID小説サイト『黄昏の歌』の別館です。 健全な表と違い、こちらはBL・及びR指定腐向けです。 読んで気分を害されたなどのクレームはお受けできませんのでご了承ください。 閲覧は自己責任でお願いします
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メインの蛇伝説デフォは後編でw(焦らしだ)
【アカマター御嶽】
昔、まだ沖縄が琉球と呼ばれていた頃、薩摩を介して大勢の日本人が交易の為にはるばる遠く琉球へとやってきた。
本土では貴重な黒糖や珊瑚、中国からの交易で手に入れた貴重な品を求める人で琉球の首都那覇港は一時日本人が溢れかえっていた。
しかし、大勢の日本人が流れ込めば時に文化や風習、風土や考え方の違いで現地の琉球人との衝突も避けられなかった。
もちろん、琉球の人たちにとって日本人も貴重な文化や珍しい食材を売ってくれる貴重な交易相手だから無下にすることも出来ない。
だからと言って、彼らの無法な振る舞いに昔から言い伝えられている神聖な場所や風習を侵されることは許されなかった。琉球の人々は自然の中に神が息づいており、その場に霊場と言うべき神聖な力が宿っている事を知っている。
かつては日本人も神々の恐ろしさをよく知っていたはずだった。しかし、いつの頃からか古い伝承のみで語り継がれるものとして、それらは前時代的な因習として記憶されてしまっていた。
だが、古より伝わる神の力は紛れも無く琉球の地で生き残っていた。
越後から出発し、遠く蝦夷地、近江、長崎、薩摩と一年掛けて周遊してきた交易船、北前船はようやくはるか南の島、琉球に辿り着いた。
薩摩を出発してからすでに三ヶ月、故郷の京の都を出発してすでに半年が経過していた。
着岸の報せに伏見稲荷の宮司、勇馬は急いで船室から飛び出した。
今はまだ木の芽の固い弥生の頃のはずだが、水無月かと思うほど暖かい。緑豊かな自然囲まれ、海は空にも負けないほど青く澄み切っている。
文化の中心地が京の都から関東の江戸に移って百余年、かつては朝廷相手に金貸しをできるくらい莫大な財力を持っていた寺社仏閣も今や資金繰りに難儀する有り様だった。比較的寄進が集まりやすい寺社仏閣でもこの有り様だったから、京の都は慢性的な財政困窮に陥っていて、朝廷でさえ国宝の貴重品を密かに売買していたほどだった。
商売繁盛のご利益に霊験あらたかな伏見稲荷は交易船貿易に目を付けた。
交易船での貿易は珍しい品物を運搬するため、航海が成功すれば巨万の富を得ることができるが、難破したら全てが海の藻屑に消えるハイリスク・ハイリターンの商売だ。海運業、廻船問屋を営む商人は皆、航海の安全を祈願していた。
そこで伏見稲荷の神主は商売繁盛の霊験あらたかな伏見稲荷の札を交易船が来航する港町に売ることを考えた。それなりに修行を積んで、札を書くことを許された宮司を交易船に乗せ、寄港地で札を売らせる。そうすれば交易船の積み荷を求める商人たちは霊験にあやかりたいと競って買うことだろう。
神主の命で数人の仲間と交易船に乗って札を売り歩いた勇馬だったが、神主の狙い通り伏見稲荷の札はどの寄港地でも飛ぶように売れた。1札1貫文、一両に相当する高額だったが、それでも商売の安全を願う商人たちは競うように求めた。
すでに長崎に着く頃には社の改修費用の目標額に届いていた。しかし、寄港地での珍しい商品はまだ若い宮司たちの購買意欲をも刺激した。
珍しい装飾品、美しい着物、名産品を用いた美食、まだ見ぬ琉球への期待に勇馬は目を輝かせた。
「琉球でも札は全部売れましたね。出港まであと7日あります。それまで好きに過ごしなさい」
宮司頭の清照の言葉に若い宮司たちはわっと快哉を上げた。
琉球は蝦夷地のような未開の地と聞いていたが、蝦夷地よりも遥かに暖かいし中国の文化も入っているから街も栄えてまるでお祭りのような賑やかさだ。
早速、許しが出た途端にあるものは市場へ、あるものは料亭へ、あるものは遊郭へと思い思いの場所へ繰り出して行った。
勇馬も喜んで市場に飛び出していった。
宮司たちの中で一番若く面立ちも愛らしかった勇馬の札は心付けという手数料付きで売れたため、遊ぶ金はしっかり懐にたっぷり貯まっている。
那覇の長虹堤は琉球一大の大規模露天マーケットだ。ガラクタしか置いてないような蚤の市かと思えば王府の役人さえもお忍びで訪れるような超高級品を扱う店もある。この市では手に入らないものはないと呼ばれるくらいの大規模な市場を形成していた。
「さあさあ、うちの芭蕉布はイッペー(一番)上等さぁ。見ていっとくれ」
「蒸したてのムーチーだよぉ。うまいよぉ」
「サンシンいらんかね?今なら弾爪もおまけするよ」
「うわあ・・・」
初めて目にするものばかりで勇馬の目が煌めき出す。
京の都ではこんな賑やかな市場はついぞ目にしたことはない。それに店から漂ってくる見たこともない食べ物の旨そうな匂いときたら、自然と口の中に唾が湧いてしまうのを止められないほどだ。
早速幾つか美味しそうなジューシー(炊き込みご飯)の握り飯やら、綺麗な珊瑚の飾り根付やらめぼしいものを買い求めた。
進めば進むほど面白いものや珍しいものが飛び込んでくる。
見知らぬ土地でも懐の金子がある以上不自由はしない。勇馬の足は自然と長虹堤の先、市場の端に向けて進んでいた。
「いいところだなぁ・・・。琉球にも稲荷神社があればいいのに・・・」
長虹堤にかかる月を眺めながらサーターアンダギーを頬張った勇馬は思わずそう呟いた。
遠浅の海は穏やかで風は暖かく心地よい。夜なのにちっとも寒くないから平気で野宿もできそうだ。
おまけに琉球は高いものから安いものまでなんでも揃っているし、どれもそれほど悪くないのだ。島国国家であるから海運業者も多いし、そうした人を相手に札を売れば食うにも困らない。
伏見稲荷では財政難のせいで一日一食、それも顔が映る程質素な粥しか与えられなかった。その頃を顧みれば琉球はまさに楽園だった。
薩摩や長崎も悪くなかったが、やはり商売敵がすでにいる日本本土よりも相手がいない蝦夷や琉球の方が札を売るのにも難儀しなかった。
しかし、勇馬は蝦夷地より琉球のほうが気に入っていた。
なぜなら・・・。
『僕は君のそういうやり方はあまり感心しないよ。上辺だけ神の威を借りるのはとても失礼なことだ。いつか報いを受けるよ』
「・・・・・」
蝦夷地で言われた言葉が勇馬の脳裏をかすめた。
箱舘で札を売っていた時、蝦夷地の奥にあるサポロペツという集落に住むアイヌの長が交易にやってきていた。
まだ若いカイトマサインという長は勇馬の求めに応じて珍しいアットゥシの布や毛皮などを交換価値のある日本酒や米で交換できるという言い分を信じて金子で取引してくれた。
アイヌは基本、物々交換で自然からの恵みを等しく公平に分配することを交易に置いて目的としている。だから金子で取引してくれることは珍しい。仲間の中でも蝦夷地でアイヌ相手の商売ができたのは勇馬とカイトマサイン間のみだった。
カイトマサインは日本人の商売方法に興味があったらしく、勇馬に色々な話を聞いてきた。
そして、勇馬のしている商売方法を聞くと悲しげに頭を振ってそう告げたのだ。
アイヌにとって身の回り全てが神であり、神によって生かされているという宗教観で生活をしている。だからこそ、日々の生活の中で神への感謝を忘れない。
恩恵が受けられて当たり前、仲介しているから儲けを分けて貰って当然、そんな商売では罰を受けるとカイトマサインは勇馬にそう諭した。
しかし、勇馬は面白くなかった。
文化的にも明らかに劣っているようにしか見えないアイヌが、千年もの古から続く稲荷神社の宮司たる自分に偉そうに説教するなんて、そんな反発心から素直に聞き入れなかった。
そんな経緯もあって蝦夷での思い出は勇馬にとってあまりいい思い出ではなかった。
その点、琉球は理解もあって人も穏やかで過ごしやすい。いっそこの地に永住するのも悪くないとも思った。
思い切り伸びをすると、頬にポツリと落ちて来たものがある。
「おや・・・」
空を見上げると月に分厚い雲がかかり始めている。
一雨来そうな空気に勇馬は雨宿り出来そうな場所を探した。
浜辺にはもちろん民家はない。しかし、十貫瀬通りの反対側は鬱蒼とした森が広がっている。コブだらけのガジュマルが群生する森は十分雨宿り出来そうだった。
迷わずガジュマルの森に入り込むと、見計らったように雨が降ってきた。案の定、木の葉が屋根になって雨に濡れることはない。
ホッと一息ついた勇馬が腰をおろしたそこは草木が生い茂って霧でも漂いそうな空気に満ち溢れていた。
さっと木々の間を吹き抜けていく風はひんやりと心地よい。
「うう・・・」
さっき呑んだ酒の酔いが風に覚まされて、代わりに用を足したい気分になった。
若干抵抗はあったが、大自然の中であったし、厠など近くにあるはずもない。仕方なく、袴を下ろして褌を外すと窪地になっているそこに用を足した。
『・・・・』
「・・・、・・・だれ?」
夜の森の中だ。しかも市場からかなり離れていて民家も見つからなかった場所である。
辺りには誰も居ないはずなのに、用を足している間も何やらまとわり付くような視線を感じた。
さすがに気味悪くなって振り返るが、通り雨が過ぎて月明かりが差し込んだ状態でもやはり誰もいなかった。
あまり長居をしないで市場に戻ったほうがいいだろうか。そう思った勇馬の視線の先、森の向こうが一瞬青白く光った。
「!?」
急いで居住まいを正すと勇馬は光を発した森の奥へと向かった。
ガジュマルの枝の先を抜けると、そこは入り口に岩を積み重ねた洞窟だった。
岩が重なり合ったそこは天然の岩屋と言っても過言ではない。
「へえ・・・」
興味をそそられて勇馬は洞窟の奥へと進んでいく。
天井の岩の隙間から月明かりが差し込んで灯りが無くても不自由しない。更に奥に進むと石を重ねた粗末そうな祭壇もどきのようなものが安置されていた。その上には硝子玉のような粗末な青石が一つ、月明かりを受けて光っている。
「何だ、これが光っただけか・・・」
幽霊の正体見たり枯れ尾花、いや、枯れ尾花よりももっとお粗末な結果に勇馬は苦笑いを浮かべてその石を手に取った。
もっともらしく祭壇を設けているようだが、とてもそれらしい神聖な気配は感じられなかった。敬い崇め奉られる事を忘れられた憐れな祭事の成れの果てだろうか。
しかしながら、寝床にするには悪くない。
試しに横になってみると岩場なのに床は枯れ葉が溜まってちょうどいい寝心地だった。
腹もいっぱいになってそこそこ疲れていた勇馬はうとうととその場で寝入ってしまった。