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VOCALOID小説サイト『黄昏の歌』の別館です。 健全な表と違い、こちらはBL・及びR指定腐向けです。 読んで気分を害されたなどのクレームはお受けできませんのでご了承ください。 閲覧は自己責任でお願いします

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宗三蝶々ネタでちょっと一本書けたので、どうぞ、お納めください。


『義元揚羽』

A県G市のかつて天下に武を唱えようとした戦国武将の城があった場所には固有種の珍しい蝶が生息している。
種はチョウ目アゲハチョウ科、春型で五月雨の季節になるとさかんに活動するこの蝶はアゲハ属には珍しい鴇色の愛らしい色と鋭利な翅の曲線が美しい。飛び交う姿もまた舞を舞っているかのように見える蝶は「ソウザアゲハ(ヨシモトアゲハ)」という。
愛好家も多く人気の高いソウザアゲハだが、現代でこの蝶を飼育するものは殆どいない。
そこには、この蝶の名前の由来になった史実と悲劇にまつわる伝説があった。

織田家家臣・毛利良勝によって永禄3年5月19日、戦国大名今川義元は桶狭間に散った。
この功績は大きく、信長は良勝に手厚く褒美を与え、黒母衣衆に加えて俸禄も加増させたという。
足利義昭を擁し、京都へ上り、天下に号令を掛けんと意気軒高とする織田家だが、領国尾張では彼のあずかり知らぬところで奇妙な出来事が起こっていた。
最初、その蝶が見つかったのは桶狭間だった。駿府に住まう徳川家康が同盟を結ぶために信長のいる岐阜城へ向かう道中、家臣たちが発見した。
薄紅よりも紅の多い鴇色の翅を翻し、目の前で舞いを舞うように軽やかに飛ぶ蝶は誰の目にも美しかった。すぐさま蝶の扱いに手慣れたものがその蝶を捕え、家康に見せたところ家康もまたその蝶の美しさに息をついた。
「おお、これはなんと美しい・・・」
蝶にはあまり関心を示すことも稀だった家康だが、さすがにこの蝶の美しさは別格だった。
華美なものはあまり好まない家康でさえも虜になるほどなのだ。ましてや、煌びやか好みの信長公ならどれほど気に入ることだろう。
すぐさま家康は家臣に命じて、他に同じ蝶がいないか辺りを捜索させた。
桶狭間で休息を取るのは縁起が悪いとして、先に墨俣の辺りまで隊を進めた家康の元に一夜明けて計8頭の蝶が届けられた。
捕えた蝶を信長に差し出すと、家康の思った通り可憐で美しいこの蝶を信長もいたく気に入った。捕まえた場所が桶狭間だったというのも気に入った理由の一つらしい。
桶狭間の一戦以来、織田家は破竹の勢いで勢力を伸ばしている。縁起がいいとして、信長も家臣に命じてこの蝶を徹底的に狩りつくすよう命じた。
しかし、信長はこの蝶の恐ろしさを知らなかった。


「まあ、美しいこと・・・」
信長の妹、お市の方の姉に当たるお犬の方もこの蝶を渡された一人だった。
お市の方に勝るとも劣らない美貌を持つお犬の方もこの蝶をいたく気に入った。だが、古今東西美しいものを好む女性はいても、虫そのものを好む女性は少ない。
お犬の方も例外に漏れなかった。特にこの蝶は夜になると籠の中でばたつきだす。蝶の鱗粉が籠の下に溜まるのもあまり気持ち良いものではなかった。
「やはり、生き物は手元におくべきではないの」
「左様でございますね、姫様。見目美しくとも、姫様の身体に障りでもしたら困りますもの」
「・・・うむ。おお、そうじゃ、たしか京の職人が尾張にも来ておったのう。私の新しい打掛にこの蝶を柄にするというのはいかがじゃ?」
「それは名案でございますね!姫様!!きっと姫様が纏えば蝶も霞んでしまうことでしょう。早速呼んで作らせましょう」
すぐさま侍女が呼び寄せた京の職人はこの蝶の図案をあしらった打掛の図案をお犬の方に提示した。思った通りの美しい出来栄えにお犬の方は満足して、完成までの間蝶を職人に預けて打掛の完成を楽しみに待っていた。
ところが・・・。
職人に蝶を預けて三日後の夜、もうじき打掛も刺繍を施して完成するとの知らせを受けたその晩、お犬の方はきな臭い匂いに目を覚ました。
起き上がると遠くで人の悲鳴と叫び声が聞こえる。なにごとか、呼ぶ前に侍女がお犬の方の元へ駈け込んできた。
「お犬の方様、大変でございます!!出火でございます!!」
「なんと!まことか!!」
急ぎ庭に飛び出して池の側に逃げ出したお犬の方は背後の燃え盛る火柱に息をのんだ。
幸いこちらは風上で火の手は及びそうにないが、燃え盛る火柱に震えが止まらない。
「母上は・・・、お市は無事か・・・?」
「出火元は下屋敷でございます故、土御前様やお市様はご無事でございます。ですが・・・」
「下屋敷じゃと?!あ、あそこは・・・」
下屋敷は職人が多く出入りしている。信長の買い漁った火縄銃の分解と改良を手掛ける職人が作業するために開放もしていた。そして、お犬の方が打掛を発注した職人もそこにいたはずなのだ。
「おお、なんということ・・・。兄上になんと申し開きをすればよい・・・」
留守を預かった上での不始末もさながら、あの美しい蝶を打掛もろとも失ってしまった自責の念がお犬の方を責めさいなんだ。


比叡山延暦寺にこの蝶が贈られたのは信長包囲網の最中、朝倉・浅井勢に対する織田が背後を延暦寺に取られないための懐柔策だった。
時の延暦寺の主、天台座主は帝の弟・覚恕法親王。さすがの信長も朝廷には強く出られないと踏んだ延暦寺側は得意げだった。
また覚恕法親王もこの美しい贈り物に気分を良くした。信長の要請に応じて挟撃の手は控えさせた。
しかし、信長は一時的な懐柔策で終わる男ではなかった。
朝倉・浅井を滅ぼしたとみるや、すぐにその矛先を延暦寺に向けた。
これには延暦寺の僧兵たちもいきり立った。断固徹底抗戦も辞さない構えを取ったが、それよりも怒りに震えたのは覚恕法親王だった。
あれだけ腰を低くして礼儀を示したから許したのに、それが過ぎると即座に掌を返すそのやり口にまんまと乗せられたのだと思うと腹の虫がおさまらない。
珍しい蝶の贈り物に浮かれて信長の言を易々と信じてしまった自分の浅はかさが恨めしかった。
だが、過ぎた過去を悔やんでも信長の侵攻は止まらない。
初戦は武家とはいえ神仏に弓引くことなどできないと高をくくっていた僧兵たちだったが、家臣が仏閣勢力に及び腰と知るや自ら直臣を率いて前線にでてきたのだ。堺の商人たちを抑えて物資も潤沢な上、信長直々の旗振りとあって織田の攻勢は緩むことがない。
延暦寺に差し迫ってきた織田軍を前に陥落は時間の問題とさえ思われた。
天台座主の部屋から外を眺めると、織田軍の野営のかがり火が見える。
延暦寺が落とされるのは明日明後日の事かもしれない。
わが身が惜しいとは言わないが、気がかりなのは自分に従った信者たちである。
信者の中には女子供や老人もいる。朝倉・浅井の敗戦後の噂では信長は女子供関係なく残党狩りを徹底したらしい。
信者全てをなで斬りにされると思うと心が痛んだ。
「・・・・・」
項垂れた天台座主の耳に羽音が聞こえた。
顔を上げると信長から贈られた蝶が籠の中でしきりに翅をばたつかせているのが燭台の灯りに浮かび上がっていた。
思えば、この蝶のせいだった。
信長の甘言にまんまと載せられたのも、その条件を呑まねばこの蝶を手放さねばならないかもしれないという危惧から呑んでしまった。
夜闇に乗じて激しく飛び回るのも気に入らない。
あれほど褒めそやしたこの蝶が今は憎くて憎くて仕方なかった。
「くそうっ!!」
怒りに任せて天台座主は籠を持ち上げると蝶もろとも籠を畳に叩きつけた。
籠は壊れたが、蝶はひらひらと籠から抜け出して飛び上がる。その先には燭台の灯りがちらついていた。
「ああっ!!」
なんということだろうか。美しかった蝶は火に身を投じてしまったではないか。
しかも、火に身を焦がしつつもまだ息があるらしい。
火を纏いながら蝶は苦しげに机の上、障子紙、襖とあちらこちらに飛び回る。
蝶が息絶える頃には天台座主の部屋は火の海と化していた。
天台座主の部屋から飛び火した炎は瞬く間に延暦寺全体に燃え広がり、本拠地を無くした延暦寺は信長相手に成す術もなかった。
出火の真相は信長の残虐性と相まって、信長による焼き討ちとして片づけられたのだった。


松永弾正久秀もこの蝶を手にした一人だった。
信長に降伏したが、一流の文化人であり教養人でもあった松永はこの蝶の生態に興味を抱き、色々と実験と検証を重ねて、最初番でもらった二頭を最終的に二十頭近くまで増やすことに成功した。
だが、野心家の彼は自己研鑽と研究のみで満足することはなく、度々信長に楯突いた。
しかし、信長はその都度松永の策を破り、尚且つ裏で糸を引いていた松永を条件付きで許した。
「・・・・・」
ことことと湯を煮やす名物・平蜘蛛の茶釜を前に松永の表情は冴えない。
信長に対する詰めの甘さと言ってしまえばそれまでだが、人生最後の一点ものとまで愛したこの平蜘蛛の茶釜を手放すのは茶人としての松永にとって耐えがたい苦痛だった。
部屋の隅には大量の火薬が置かれている。本来一向一揆の際に信長の背後を封じるのに使うつもりだったが、予想よりも早く制圧されてしまったせいで使いどころを無くした。
茶を立てながら松永は今後の身の処し方を思案する。
信長は近く中国を制圧する心づもりだ。ここで平蜘蛛を質に入れて、臣従を誓えば大和を中心とする畿内を支配下に置くこともできるかもしれない。それも十分旨みのある話だが、信長の元で一生飼い殺しというのも面白くない。
だが、相次いで企てが失敗に終わった今は反旗を翻してもすぐに看破されて叩きのめされるのがオチだろう。それも先の将軍・義輝を弑した悪党松永久秀としては陳腐な終わり方だ。
どうしたものか。
途方に暮れた松永は籠の蝶に目を止めた。
平蜘蛛を沸かす炭火の火に反応しているのか暴れている。
それを見た松永の目に一種の狂気じみた享楽の色が浮かんだ。
窓を開け放つと、側の釣雪洞に灯りを付け、蝶の籠に手を掛けた。
長年の研究でこの蝶は火に近づく習性があることを知っている松永は一か八かの掛けに出た。
蝶が外の火に焦がれて飛んでいけば松永は無事で済む。だが、平蜘蛛の火に飛べば部屋を暴れまわり、火薬に引火して死ぬだろう。
逸る気持ちを宥めながら松永は二十頭を超す蝶を開け放った。
すると・・・!!
「おおっ・・・!!ふ、ふははははっ!!」
迷わず平蜘蛛の炭火に身を投じた全ての蝶は部屋一面を照らす炎の蝶と化した。
火の粉の鱗粉を振りまきながら舞い飛ぶ蝶はこの世のものとは思えない程美しい。
滅びるとわかっているが、この光景を目に焼き付けられるのはこの上ない行幸としか思えなかった。
滅びると、死ぬとわかってなお愚行を犯す様がこれほど美しいとは・・・。
まさに松永久秀に相応しい集大成としか思えない。
「ふははははははははは!!はーはっはっはっはっはっはっは!!」
松永の断末魔の高笑いは火薬に火が燃え移るまで止まらなかった。


そして、京の本能寺。
燃え盛る寺の中で信長は目の前を掠める炎の蝶の姿を捉えた。
元より美しかったが燃える今はいっそう美しい。
冥府に誘う美しさと知っていてもなお愛おしさは募る。
「これは、うぬの迎えか?義元・・・」
桶狭間で見つけた蝶が起こした怪異は信長の耳にも少なからず聞き及んでいる。
見惚れたものを黄泉路に誘うなど、なかなか凝った趣向ではないか。
人生は一睡の夢、だからこそ生きるも死ぬも一定。
信長は焔の蝶の舞に合わせて謡った。
「人間五十年、下天の内をくらぶれば夢幻のごとくなり一度生を稟け、滅せぬ物の有る可き乎・・・」



「なるほど、確かに僕の名前にピッタリの蝶ですね」
籠の中のソウザアゲハを弄びながら審神者の本丸で兄の江雪左文字の説明を聞いていた宗三左文字はおかしそうに笑う。
その炎に身を投じる奇妙な習性と美しさ、権力者に愛されたが故収集されその度火に焼けた宗三との類似点から宗三の名前が付けられた蝶は奇しくも桶狭間で義元が討たれた頃に活動を活発化させる。
庭で昆虫採集を愛染国俊らとしていた小夜が持ってきたものだが、その日以来雨は止むことなく降り続いている。
おもむろに立ち上がった宗三は釣提灯に灯りを付けた。
すぐに宗三の思惑を察した江雪は眉をひそめた。
「宗三・・・」
「大丈夫ですよ、兄上。今は雨、燃え移ることなどありませんから」
念のため釣提灯を外して庭に置いて、柄杓の水も側に近寄せた。
満を持して籠を開け放つとやはりソウザアゲハは提灯の火目がけて飛んでいく。
火花を散らしながらこちらに向かって舞い飛んでくる炎の蝶目がけて宗三は柄杓の水をぶちまけた。
火が消え、命尽きた蝶は消し炭ともわからないものに変化している。
つまみ上げると亡骸は指の中でボロボロと崩れた。
「蝶の癖に二度はないなんて・・・、羨ましい限りですね」

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但し書きにもありますが、こちらはボカロサイト「黄昏の歌」腐向けサイドサイトです。
基本的な設定や年齢設定キャラクター設定は表のものとほとんど同じです。
たまに女性キャラが出ますが、主にこちらでは絡みません。
女性キャラとの絡みに関するご意見ご感想は表サイトでお願いします。

とりあえず一応こちらのメインである男性陣の設定や主に絡む相手のラインナップは下の項目からどうぞ。

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····· 各種設定

続きです。
冒頭だけのはずが、案外アイヌの兄さんが好評だったのでキーパーソンに大出世しました。

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····· 異種姦萌え

ようやく書き上がりました。
例によってまた長くなったので続きます。


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····· 異種姦萌え

書いても書いても書いても書いても止まらない症候群に陥りました。ようやく致しちゃったんですが、蛇婿伝説や伝承のネタも下地に欲しかったのでまだ続きます


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····· 異種姦萌え

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