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VOCALOID小説サイト『黄昏の歌』の別館です。 健全な表と違い、こちらはBL・及びR指定腐向けです。 読んで気分を害されたなどのクレームはお受けできませんのでご了承ください。 閲覧は自己責任でお願いします

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最初の毒牙はまずこの子w
最奥の花カタナイス、メインのエロ突入回です!!

やっぱり最初に食われちゃうのは勇ちゃんですよねぇwww
しかし、殿は本当に悪役がよく似合うwww
 
後日、料亭『初咲巡』を経て宮廷料理人の元へ、料理人の元から貴人へ、貴人から皇帝及び楊妃の元へ届けられた見事な桃に、皇帝の機嫌は上々だった。おまけに楊妃の好物であるライチが添えて献上されていたものだから、楊妃の機嫌はこの上なく、皇帝は驚きと共に喜んだ。
唐広しといえども、この季節に桃、そしてライチを用意できるのはただ一人しかいない。
皇帝の命でさえも拒む権限を持ち、なかなか再三の要望にも応えなかった楽歩がようやく折れてくれたのだ。仲介に入った商人が功を奏したとしか思えない。
皇帝は用意した貴人に莫大な恩賞を取らせ、仕入れた商人からもっと仕入れさせるよう命じた。
恩賞の一部はもちろん、新しく入った果実は『初咲巡』の目玉にもなった。
噂を聞きつけた客が興味本位で遠方からも足を運んでくる。
その客たちに『初咲巡』の三姉妹は自慢の料理でもてなした。
「さあ、十年物の老酒をどうぞ」
「フカヒレの酒蒸しでございます」
「カニの野菜炒めです」
客が料理に舌鼓を打ち、口寂しくなった頃を見計らって末っ子の鈴が色鮮やかに盛り付けた器を運んでくる。
「サンザシの砂糖漬け、お待たせ!」
目に鮮やかなサンザシは見る者の唾を沸かせる。
料理だけでも十分おいしかったが、食後のデザートは新しい客層も招き入れた。
上々な客の反応に姉たちも大満足だ。
「さすが私たちの妹ね」
「偉いですわ。鈴」
「これから果物の担当はよろしくね」
ついこないだまで雑用役だったのに、急に良くなった待遇に鈴は嬉しそうに笑う。
すっかり果物担当としての役割が板に付いた鈴は、それらしく在庫を確認して声を上げる。
「あ、いけない。残り少なくなってきちゃった。姐姐、ちょっと仕入れに行ってきまーす」
「夕方までには帰ってらっしゃいね。お遣いあるから」
「はーい!!」
明子の言葉もそこそこに鈴は元気よく飛び出して行ってしまう。
その姿を瑠樺は眩しげに見送っていた。
「鈴の嬉しそうなこと。これであの子も大丈夫ですね」
「でも、あの子、仕入れっていったいどこで取ってきてるんだろう?」
果物の仕入れ先に合点がいかず、美玖は首を傾げた。
このあたりにそれらしい木がある場所はないし、ちゃんと仕入れに行っても夕方には帰ってくるからそう遠くはないのだろう。
「美玖、青椒肉絲急いでちょうだい!!」
「あ、はーい!!」
鈴の行き先は気になるが、目先の仕事が先だ。
美玖はすぐさま厨房に戻って仕事の続きに取り掛かった。
 
その鈴は神斗宮内の東屋で蜜柑を口いっぱいに頬張っていた。
桃の献上騒ぎの折、宮廷内の事情に詳しい楽歩は桃にライチを添えて用意してくれた。
お陰で、店は潰れずに済んだだけでなく、依頼主の貴人から姉妹それぞれに見事な晴れ着と装飾品をもらうことができた。
それだけではなく、楽歩は鈴に入用なら好きなだけ果実を持っていくことを許可してくれ、こうして尋ねると決まって鈴の大好きな蜜柑を食べさせてくれる。
最早鈴にとって楽歩は大恩人として、彼の言う事ならどんなことでも従う覚悟だった。
「大学内でも海人様と勇馬様の人気は貴賤を問いません。先日は徐講師が海人様に恋文を出しました」
「あの賂い講師めが、また年甲斐もなく学生に手を出しているのか。して、どうなった?」
「勇馬様が徐講師の文面に不適切な文法と慣用句があったのを見つけて指摘したら、『恋に溺れて(自分が)ぼけました』という意味になったみたいで、笑い話になったそうです」
鈴が夕食の後、海人と勇馬から聞かされた話を楽歩に聴かせると、楽歩は高らかに笑う。
その話を聞いた時、鈴も笑ってしまったが、楽歩の笑顔につられて鈴はもっと話を続ける。
「勇馬様は書物がお好きなようで、こないだ持っていった桃を差し上げても新しい書物に夢中で全然気づかなかったんです。そしたら海人様がこっそり勇馬様の分食べちゃって、後で気が付いた勇馬様、すっごく悔しがってました」
「ほう・・・」
鈴が話す情報に楽歩は耳を傾けていた。
百合からこの鈴も百合に劣らぬ情報通で、更にみだりに立ち入ることを許されない留学生の宿舎、それも「金花玉樹」の二人に可愛がられていると聞いてこの手を逃す他ないと思った。
接触を図っていると、その機会は意外な形で訪れた。まさか、皇帝の酔狂な命令を自分が突っぱねたお陰で、巡り巡って鈴の家にまでその影響が及んだのは予想外だったが、これが功を奏して果実を餌に鈴を懐柔することに成功した。
更に楽歩は鈴に諜報員としても通用するほどの教育を施した。
日常生活の様子、人の機嫌、口調からその人と成りを察し、その人物の性格まで一目で見抜けるよう、処世術の一環として教え込んだ。
その甲斐あって、鈴は楽歩の目代わり・耳代わりとして「金花玉樹」の情報を赤裸々に伝える優秀な諜報員として役目を果たしている。
(そろそろか・・・)
鈴からの情報で、大方の性格や個性は把握できた。
一度に二人をおびき寄せるのは難しいが、一人ずつ招きよせるのは容易いだろう。そして、餌も用意できているし、好機も巡ってきた。
「あ、いけない。そろそろ帰って勇馬様の夕飯のお遣いいかなきゃ!」
近くの寺の時刻を告げる鐘の音で時間に気が付いた鈴が帰り支度を急ぐ。
今晩から宮廷で三日三晩かけての宴が催される。
歌舞に演奏、京劇と三夜続けて行われる宴は官吏の殆どが参加する上に、各国の使節団も参加を許される。
祭礼を学びに来た海人がこの宴に出席しない訳がない。
その間、祭礼が専門ではない勇馬は宿舎で一人きりだ。もちろん、この情報は鈴を経て楽歩は事前に承知している。
「それでは、楽歩様。失礼します」
「ああ、鈴、お待ち・・・」
急いで帰ろうとする鈴を楽歩は呼び止めると、一冊の本を取り出して差し出す。
手渡されたそれは、鈴には全く読めない難解な文章で埋め尽くされていた。
「それを勇馬殿にお渡ししておくれ。勇馬殿が私の思っている通りの才能を持つ人物なら、きっと読めるはずだ」
楽歩が差し出した本は、孔子が編纂したと言われる『四書五経』の書だった。
始皇帝代に焚書坑儒で失ったとされた幻の書。
歴史と文学を志すものなら知らないものはいない。
 
「一体、誰がこれを・・・!?」
鈴から受け取った勇馬の手が震える。
大学にさえ置いてなかった貴重本中の貴重書である。
しかもちゃんと紙で製本されており、文字に至っては王羲之の書を思わせる達筆さだ。
大学の講師でさえこれを作れる者はいないだろう。
「楽歩様のお家に代々秘密裏に管理してらっしゃったものを、楽歩様が自ら書き写してまとめたんだって。楽歩様が勉学熱心な勇馬様に贈り物って」
「威太子様が・・・?」
楽歩からの贈り物と知って、勇馬は恐れ多いのと同時に納得がいった。
威家は系譜を遡れば、皇帝の一族の血を受け継ぐ名門、いわば皇淑の家柄だ。
先祖も学問や儀礼を奨励し、発展に貢献している家柄でもある。その家ならば、紛失したと思われた文書を秘密裏に管理していてもおかしくない。
さすがというべきか、かつての英才「紫牡丹」の異名は伊達ではない。勇馬は改めて、その才に唸った。
「素晴らしい・・・。さすが威太子様です・・・。これほど過分なものを、僕に・・・!!」
紛失されたと思われる個所は、彼の考えと推察でまとめ上げられているが、反論の余地はない。失われた原本がそのまま蘇ったと思われるほどの完成度の高さだ。
「それと、もっと読みたいものがあったら楽歩様の神斗宮に来いって、いつでも構わないって言ってたよ」
「本当ですか!?では、早速行ってきます」
喜び勇んで勇馬は宿舎を飛び出すと、一目散に楽歩の神斗宮に向かった。
海人も宴に出かけて留守だし、宿舎はもちろん大学の書物もほとんど全部読みつくしてしまった勇馬にとってこれほど魅力的な誘いはなかった。
神斗宮は太子の邸宅にふさわしい見事な構えだった。
人を避ける上に、貴人はもちろん皇帝でさえ敬意を払って接する威家の主、今や太子の身分である。
一介の留学生である勇馬がとてもお近づきになれる人物ではなかった。
来るときは足取りも軽くやってきた勇馬だったが、改めてその邸宅を前にすると怯んでしまう。
と、そこへ、風呂敷を抱えた娘が慣れた様子で門扉を叩く。
その娘は勇馬に気が付いて顔を上げた。
「あら、勇馬様・・・」
「あ!あの時の・・・」
娘の顔を見た勇馬も声を上げる。
前に海人が風土病を患った時、薬を処方してくれた薬師の娘だった。
百合も勇馬の姿に驚いたようだったが、すぐに合点がいった。
すぐに笑顔を浮かべると、いかにもそ知らぬ風で明るく話しかける。
「容体を診に行って以来ですね。お二方とも、健やかにお過ごしでいらっしゃいますか?」
「はい、おかげさまで・・・。百合、先生はこちらにも来ていらっしゃったのですか?」
「ええ。楽歩様から贔屓をいただきまして、こうして定期的に来ることを許されております」
要件の内容はともあれ、嘘は言っていない。
中に入るのにどうしたらいいか思案していた勇馬にとって、太子と繋がりがある百合は願ってもない橋渡し役だった。
閂が内側から開けられる前に、勇馬は百合を呼びとめる。
「すみません、百合先生。僕、いえ私は先程、威太子から過分なものをいただきましたので、お礼に参じたのですが、面識のない私が前触れなく押し掛けるのも失礼な話です。繋がりのある百合先生から、お取次ぎ願えますか?」
慎ましく慇懃に願い出る勇馬に百合は目を眇めた。
最初、往診で訪ねた時にも思ったことだが、倭国の留学生は巷で噂されているような人物像とは正反対でひどく礼儀正しい上に常に相手の事を慮る。心根の優しい民族なのだろう。
つくづく、楽歩太子の気に入りそうな人材だった。
「ええ、もちろん、どうぞ勇馬様。楽歩太子様もさぞお喜びの事でしょう」
快諾したと同時に、門が開いた。
勇馬を誘いながら、百合は神斗宮の中へと足を進める。
知識欲と好奇心で心を弾ませている勇馬を横目で眺める百合の目に、ほんの一瞬わずかに憐憫の情が浮かんだ。
 
「ようこそ、山羽勇馬殿。お初にお目にかかる、威楽歩と申す」
応接室に現れた太子楽歩は略式に礼を取る。
さすが大学内でも伝説として語り継がれている俊英「紫牡丹」を前に勇馬は身も竦む思いだった。
この世にこれほど神に愛された美点を揃えた人がいたということ自体が信じられない。
思わず見とれてしまっていた勇馬は慌てて平伏した。
「お初にお目にかかります、威太子様。わ、私のようなものに過分な書物を下さいましたこと、深くお礼申し上げます」
「堅くなる必要はない。貴殿の俊才ぶりは私の耳にも届いている。私は優秀な学生が好きでね、君のような有望な学生なら必ずや読み解いてくれると思ったのだよ」
「過分なお言葉、痛み入ります。『四書五経』の書、必ずや祖国に生かします」
一点の曇りもない晴れやかな笑顔を浮かべる勇馬は眩しいほど清廉な言葉を口にする。
噂に違わぬ、いや、噂以上に可憐でいじらしい勇馬に楽歩は口元を緩ませた。
「孟子見梁恵王、王曰、叟不遠千里而来、亦将有以利吾国乎」
「孟子対えて曰く、王何ぞ必ずしも利を曰わん、亦仁義あるのみ」
『四書五経』のうち『孟子』の一文だ。
ここまで来る道のりの間に、全て読みつくして頭に入れた勇馬は問われてすぐに続きの一節を日本語訳して諳んじてみせた。
「子曰。父在觀其志。父沒觀其行。三年無改於父之道。可謂孝矣。」
「子曰く、父在せば其の志を観、父没すれば其の行を観る。三年父の道を改むること無きは、孝と謂う可し。」
「蹇將憺兮壽宮」
「蹇、まさに壽宮に憺んぜんとして、日月と光を斉しくす。」
「すごいな・・・。孔子はおろか、楚辞まで読みこなしたのか・・・」
短時間で『四書五経』の殆どを理解したと知って、楽歩も驚いた。
勇馬の才能は楽歩の想像を遥かに凌駕していた。
それでも、勇馬の知識欲は留まることを知らない。
「威太子、どうかこの勇馬にもっと知識をお与えください!」
「なんと、貪欲なことか・・・。これは嬉しい。いいだろう、こちらにおいでなさい」
楽歩は勇馬を伴って応接室を出ると、庭に接した離れへと向かう。
贅沢な玻璃(ガラス)をはめ込んだ窓からは月光に照らされた庭が見える。
池の水面は水鏡の如く、中天にかかる月を映しだしていた。
やがて楽歩はとある部屋の前で立ち止まると、戸を開けて部屋の燭台に火を灯した。
「これは・・・!!」
「私以外立ち入ることを許さない書斎だ。私が編纂したもの、我が家に代々伝わる物、国中にあらゆる手を尽くしてそろえた書物がここに納められている」
部屋の至る所に積み上げられた書物に勇馬の目が好奇心で煌めきだす。
早速、今最も注目を浴びているがなかなか手に入らない白居易の『白氏文集』を見つけて読んでいる勇馬に楽歩は相好を崩す。
「かような勉学熱心な学生は唐にもそうはいない。この邂逅に祝杯を挙げようではないか」
「あ、僕・・・、わ、私は飲めないのでお酒はちょっと・・・」
老酒はきつくてとても飲めなかったことを思い出した勇馬は遠慮がちに申しでる。
楽歩は気を害する様子もなく、微笑んだ。
「ならば茶で乾杯しよう。用意するまで、どれでも好きな書物を読むがいい」
「ありがとうございます!!」
一人残されたことで遠慮が無くなった勇馬は貪るように白氏文集をあっという間に読み切った。
次は何を読もうか、勇馬の好奇心は留まることを知らず部屋中の書物に注がれる。
そのうち、机の上にあった一冊の本に目が留まった。
思わず手に取って表紙を確認した勇馬の手が強張る。
「紫薇檀」と書かれているその小説は、赤裸々な性描写と痛烈な社会批判の内容故に禁書として写本さえ持つことを許されない禁中の大禁物だ。
全ての本を集めているのならあってもおかしくないが、さすがに勉学一筋で経験もない勇馬は内容が内容だけに読むのをためらってしまう。
しかし、唐の学生でさえ噂にすることは多くても、実際には誰も目にしたことがない秘伝の小説だ。ためらいが生じるとはいえ、好奇心には勝てない。
震える手で表紙を開く。
内容は極めて鮮烈だった。文章も巧く、読み始めた途端あっという間にその世界観に引き込まれてしまう。
話はかつて繁栄を極めた殷王朝の時代を取り上げていた。賢君だった時の皇帝が絶世の美姫に溺れ、彼女の為にありとあらゆる贅沢・要求を叶えるうちに国が没落していく。その裏側で官吏の専横が始まり、宮中はあっという間に堕落し、愛欲と金銭、権力争いで心ある官は宮中を去っていく。その腐敗は宮中に止まらず、学府や司法にまで類は及び、国力事態が衰退していく。かつては従属を誓っていた辺境の国々も次々と見切りをつけ、交易を打ち切るようになった。やがてそのうち、辺境で勢力を拡大した西域民族が反乱を起こし、繁栄を極めた王朝は呆気なく滅亡して物語は幕を閉じる。
官吏が気に入った女官や女形に法悦地獄の拷問で言いなりにしたり、司法官が裁量の対価に娘の体を要求するなど、日本では到底想像もつかないような凄惨な性描写が描かれているが、読み終えた勇馬は戦慄を覚えた。
殷王朝と時代と舞台は設定されているが、書かれている内容は唐の現状、恐ろしすぎる未来予想像に驚くほど合致していたからだ。
今の皇帝が寵姫に溺れて、市井のものまでその無茶な要求に苦しんでいるのは皆知っている。勇馬を戦慄させたのは従属していた国が見切りをつけて国交を打ち切ったという件だ。
故郷の日本は確かに唐の文化によって栄えた。唐からもたらされた文化は日本に根付き、独自の文化として形成され始めている。その一方で、唐の文化をこれ以上入れなくてもいいのではないかという考え方も広がっていった。鵜呑みにするのではなく、独自の文化を築き、より平和で安泰した文化を育もうという考えが日本では浸透しつつある。一時はあれほど、頻繁に編成されていた遣唐使も志願者は減る一方で、ここ数年全くと言っていいほど派遣がなかった。ようやく今年になって目処が立ったが、次の遣唐使船は出るか疑わしいとまで耳にしたことがあった。使節団の来訪が少なくなったのも日本に限ったことではない。
既にこの小説の内容を裏付けるような出来事なら勇馬は大学で目にしている。
先日、海人に恋文を贈った徐講師。彼の甥にあたる学生が勇馬と同期で入学したが、毎日酒と賭博に溺れ、それなのに允許(単位)はちゃんと取っている。彼の案文をたまたま目にしたことがあったが、とても允許が下りるとは思えない内容だった。
作者は不明だが、これを書いた人は恐ろしい程の洞察力の持ち主だ。
「ほう・・・。清純そうな顔をして、こんな艶本がお好みだったとは・・・」
「っ!!」
いつの間にか戻ってきて、息がかかる程顔を近寄せて覗き込んでいた楽歩に勇馬は心臓を鷲掴みにされた気分を味わった。
まさか興味本位とはいえ、最後まで全部読んだとは言えない。
耳まで真っ赤にして言葉に困る勇馬に、楽歩は艶然と微笑んだ。
「どうかな?官吏たちが禁じるほどの書物は・・・。我ながら実に的を射ていると思わないか?」
「まさか・・・、この本、あなたが・・・?」
楽歩が書いたとでも言うのだろうか。
信じられないように振り返る勇馬に、楽歩は感慨もなく自ら書いたその本をめくる。
「書くまでもない、今の唐の現状を赤裸々に綴ったまでよ。そのうち、皇帝と寵姫に取り入り寵愛を得ようとする野心家が現れるだろう。そうなれば寵姫の一族が黙っているはずがない。唐全土を巻き込む戦乱が始まる。乱は収まりを見せるだろうが、つかの間だ。弱体化した唐を周辺の、特に蒙古が放っておくはずがない。すぐに官吏、もしくは皇帝陛下だけでも開眼して気づいてほしかったが、堕落した今の惨状は直視もできぬらしい・・・」
自虐的に吐き捨てて、本を机の上に投げ出す。
投げ出した本は、挿絵付のページで開いた。宦官が宮中に上がったばかりの麗しい青年官吏を手籠めにしている絵。科挙を受けるつもりだった勇馬はその光景にぞっとした。
「ま、まさか・・・。この絵も・・・?」
「もちろん、実際に繰り広げられるのを見たまま私が書いた。・・・そう、こんな風に」
背後から自分より背の低い勇馬の体をその腕に納めながら、楽歩の手は勇馬の脇腹をなぞりながら衣服の前帯に伸びる。
「!!何をなさいます!?」
異変に気が付いた勇馬が身をよじるが、しっかりと抱きとめられているせいでそれも叶わない。
するっ、とあっけなく前帯がほどけて袴が微かな布ずれの音と共に床に落ちた。
露わになった下半身に勇馬の頬が一気に赤くなる。
日に焼けていない勇馬の肌は白磁のように白く、その肌のきめ細かさと滑らかさは女に勝るとも劣らない。
引き締まった両脚の腺をなぞられて、勇馬の口から切ない吐息が漏れる。
「あっ・・・」
少し長めに伸ばした楽歩の爪が敏感な所を心地よく刺激する。
触れられる度に、足が震えて力が抜けてしまいそうになる。
「っ!!」
楽歩の指が勇馬のピンポイントの箇所に触れる。
あまりに甘美な感触に、勇馬の体が震える。同時に、足が弛緩して自力で立っていられない。
「はぁっ・・・、はぁっ・・・」
「愛撫のみで軽く達したな・・・。愛らしいことよ・・・」
「太子・・・、何故・・・あっ!!」
力の入らない体で気丈にも振り返る勇馬だが、その声を遮って楽歩は勇馬を抱き上げると書斎の隣、大きな褥くらいしかこれと言ってめぼしいものがない部屋に入った。
楽歩は勇馬を褥の上に下ろすと、震える勇馬の頬に手を添えて口づけを落とす。
「んっ!!」
接吻から逃れようと身を引こうとするが、その動きに合わせて褥の上に押し倒されてしまう。
何とか逃げようと身をよじるが、楽歩はきつく勇馬を抱きしめて離さない。
口付けの間も、楽歩の手は止まらない。
脇腹から胸板へ、うなじから背筋へ、臍からその下の性器へ・・・。
穢れを知らない勇馬の体はほんのわずかな手の動きにさえ、逐一敏感な反応を見せる。
触れる度にしっとりと汗ばむ勇馬の体は精悍な香りを漂わせる。
永遠を思わせる口づけから解放された時、勇馬は肩で息をしていた。
愛らしいその姿に微笑んで、楽歩の手は勇馬の秘部に伸びる。
普段自分でさえ触れることないその場所に触れられて、勇馬は身を引きつらせた。
「や、やめっ・・・!!お、お許しください・・・!!」
「経験がないか・・・。それもまた一興・・・」
「太子っ!・・・やあっ!!」
しっとりと固く蕾のままだった勇馬の菊座は、初めてその侵入を許す。
指のみだが、しなやかに包み込む勇馬の肉壺は楽歩が味わったどの男、いや、女よりも感度が良く、絶妙の締め付け具合だった。
差し込んだ指を引っ掻き回して、中をぐちゃぐちゃにしてやりたい衝動に駆られたが、前戯でそこまでしてしまうのは楽しくない。
最奥の花は自ら花開くときがもっとも美しく、そして極上の蜜を滴らせる。
くい、と小さく楽歩の指が動いて腸壁の一点を突く。
前立腺を刺激され、脳髄まで痺れるような刺激が勇馬の中を貫いた。
「あぁっ!!」
「おっと・・・」
一瞬で反応した陰茎が蜜を零す前に、楽歩はその手に納めると欲望をせき止める。
今にも氾濫しそうだった快楽をせき止められて、勇馬は身を震わせた。
「た、太子・・・」
「下劣な宦官は美少年があられもなく達して乱れるのを喜ぶような悪趣味だが、私はそこまで下卑た趣味は持ち合わせてはいない。勝手に折れる花よりも、自ら手折る方が好きなのだよ」
「嫌です!!僕は、僕はこんなことには屈しません!!誰にも、誰にもこんなこと・・・」
このような行為が日常茶飯事として行われていると聞いて、恐怖の色をにじませていた勇馬だが、その目には高潔な光が宿っている。
それは、科挙を突破し、官吏として大きく成長して祖国の為に役立てたいという使命感。それが勇馬を支えていた。
既に快楽をせき止められて苦しいはずなのに、それでも気丈に撥ね退ける勇馬の姿に楽歩は虚を突かれる思いだった。
過去に抱いた者達の中に楽歩を拒んだ者ももちろんいた。
しかし、楽歩がその手に触れればあっという間に快楽に溺れ、最終的には泣いて快楽をせがみ、屈服した。
だが、勇馬は毅然として楽歩を拒み続けている。
最早、興味本位ではなく楽歩はこの青年を自分のものにしたいと強く思った。
「そうか、そこまで言うならば、仕方あるまい・・・」
褥の横に置かれた薬箱、その中には百合が楽歩の依頼で特別に調合した薬が揃っている。
下の引き出しの中に、目指す水さしのような容器に入った煎じ薬があった。
その容器の他に、一つ二つ他の引き出しから違う丸薬を取り出すと、それを勇馬の口元へ運ぶ。
口元に運ばれたその丸薬は朽ちた花のような甘ったるいにおいがしたが、本能的に危険な気配を感じ取った勇馬は口を真一文字に結んで飲もうとしない。
「やだっ、いやだっ!!」
「っ、強情な・・・」
なかなか薬を飲もうとしない勇馬に業を煮やした楽歩は、普段使わない開口具を勇馬の口に宛がうと、その穴に丸薬をおとしこむ。
無理やり喉奥に通された丸薬はすぐに喉を通り過ぎて胃の腑へと流れていった。
吐き戻す様子もない事を確認して、楽歩は勇馬の口から開口具を外す。
「一体・・・、何を・・・」
「変なものを飲ませたわけではないよ。そなたに、痛い思いはさせたくない私なりの配慮だ」
「配慮・・・?ひあっ!!」
誰何する間もなく、楽歩の手が勇馬の尻たぶを掴んだ。
左右に大きく広げられて、まだ花開いていない秘孔が収縮を繰り返す。
その秘孔に、先程取り出した水差しの口を宛がうと、固いそれを中に埋めた。
「ひっ!!いっ・・・、いたく、ない・・・?」
埋められる感触はあったが、先程のような鈍い痛みは感じない。
代わりに感じたのは初恋をした時のような甘酸っぱい疼きだった。
水差しから少しずつ、中の煎じ薬が勇馬の中に流れてくる。
不快感や異物感はほとんどない。その代り、耐え難いほどの射精感と注がれている菊座の奥が刺激を求めて激しく疼く。
「ふぅっ、うんっ・・・、はぁっ・・・」
必死に耐えようと勇馬は息を詰めるが、そんなことでは一向に納まる気配がない。
時間の経過と共に疼きは耐え難いものになり、射精を封じられている苦痛さえもが快楽の色に染まっていく。
ふと、勇馬の脳裏に先程無理やり飲まされた丸薬が浮かんだ。
(まさか・・・、媚薬・・・?)
「媚薬ではないぞ。あの丸薬は苦痛を感じなくさせるだけの、ただの麻酔のようなものだ。今、お前の中に注がれている方が媚薬、いや、媚毒か・・・」
「・・・毒?」
不穏な言葉に勇馬の表情に恐怖の色が浮かぶ。
楽歩は半分まで減った水差しの中の煎じ薬を傾けて、最後の一滴まで注ぎながら続ける。
「これは強烈な催淫作用を持った、媚薬などという言葉では納まらない程の快楽をもたらす特別なものだ。口に入れれば最後、あらゆる刺激にさえ感じる雌犬も同然になる。だが、あの丸薬を飲んでおれば、多少は緩和されるはずだ」
「そんな・・・、あっ!!」
空になった水差しを引き抜かれた途端、今まで感じたこともない快楽が勇馬の中を走り抜けた。せき止められた花芯は痛々しい程に張りつめ、わずかな先走りが滲んでいる。
先走りから零れる芳醇な香りは享受してくれる者を待ち望んでいた。
楽歩はそれを宥めるように吐息を吹きかける。
「頃合いだな。そろそろ、いただくとしよう」
「いや、いやだ・・・。ああっ―――――――――――――!!」
楽歩に花芯を咥えられ、勇馬はあられもなく声を上げた。
陰茎から浮き上がった血管はもちろん、わずかな襞まで舌で嬲られ啜りあげられる感触に勇馬の頭が快楽で塗りつぶされて真っ白になる。
せき止められていた欲望は留まることを知らず、体中の水分ごと持って行ってしまうのっではないかと思うほどしとどにあふれ出た。
楽歩は勇馬の蜜を一滴も零すことなく、吸い尽くす。
達しすぎて、もう蜜が出なくなっても、わずかに残っている残滓でさえ吸い尽くすように楽歩の動きは止まらない。
「も、もう、むりです・・・。やめて、おやめくださ・・・、っ――――――!!」
再び強く吸い上げられて勇馬の体が痙攣する。
またしても達したが、もはや勇馬の蜜は一滴たりとも残ってはいなかった。
ようやく、楽歩も勇馬から顔を起こす。
蜜の残滓をなぞるように長い舌が唇を舐めて、口元を淫靡に彩る。
「馳走になったな。極上の蜜の味、堪能したぞ」
先程まで勇馬の中を蹂躙していた指で自らも帯紐を解く。
衣を脱ぎ捨てると、勇馬のものとは比べ物にならないそれが露わになった。
「返礼をしよう。下の口に注いであげよう」
「い、いや・・・。いやです・・・」
口では拒否を唱えるが、勇馬の体は触れられるだけで楽歩の手によって本人の意志とは裏腹に花開いていく。
小ぶりながらも花開くときを待つ菊座に、楽歩は己の欲望を突き入れた。
「あぁぁっ!!」
途端に、勇馬の菊座が花開いた。
それまで、単調な用途しかなさなかったそこが、雄を受け入れる媚壺へと変化する。
痛みは全くない。
それどころか、中に刻みつけて傷になってしまいそうな肉同士が爆ぜる感触が心地よい。
もっとめちゃくちゃに猛り狂って欲しくて、勇馬の体は楽歩をしっとりとしなやかな強度で包み込む。
蕩けるほどの甘美さはないが、それでも優しく温かい快楽に楽歩も息を吐いた。
動きを止められるのが辛くて、勇馬はせがむように口付る。
互いに睦合うように舌を絡ませ合う。
甘美な悦楽が勇馬を快楽の淵に沈めていく。
「・・・どうして欲しい?」
「もっと、抉って」
「どのくらいまで?」
「深くで・・・」
引き返せないとわかっていても一度花開いてしまった以上、求めずにはいられない。
快楽の痛みは勇馬の骨の髄まで染みついてしまった。
手中に落ちた可憐な「黒檀」をその腕に抱きしめながら、楽歩は望み通り勇馬の最奥を深く強く抉る。
「あああああぁぁっ――――――――――――――――――――――!!」
快楽の渦に翻弄されながら、勇馬は意識を飛ばした。
 
 
翌日、居間で茶を口に運んでいた楽歩は立ち入ってきた人物に目を細める。
昨夜手籠められ、楽歩に抱かれた勇馬は日本の留学生衣装ではなく、楽歩から授かった漆黒の中国衣装に身を包んでいた。
祖国の衣装も似合っていたが、想像以上の勇馬の着こなしに楽歩は満足そうに微笑んだ。
手元に招きよせて、櫛箱から黄金造りの耳飾りを見繕うと勇馬の耳に飾り付けた。
漆黒の髪に黄金造りの耳飾りは良く映える。
「よく、似合うぞ。勇馬」
「はい・・・」
まるで本当に男娼になってしまったような自分に忸怩たる思いだったが、理性でそれを推しとどめる。
昨夜抱かれた後、すぐさま逃げ帰ろうとした勇馬だが、楽歩は驚くべき言葉を告げた。
日本が、ついに遣唐使制度を廃止した。
留学生は10年以上、唐に滞在していなければならないが、皇帝への挨拶の使いは半年程度で帰国の途に就く。帰ってきた使いからの報告で、ついに朝廷が遣唐使制度を廃止に踏み切ったのだ。
この事実は楽歩が遣わした留学僧、日本に渡った琉斗(リュウト)が訓練した伝書鳩を使って知らせた。言わば楽歩しかまだ知らない事実だ。
だが、権威にこだわる王朝はこの事実を隠すだろう。そうなれば、勇馬も海人も祖国に帰る希望を抱いたまま、悪戯に異郷の地で果てることになる。
帰りたくても、遣唐使船以外の船には王府が出した許可証が必要だ。船に乗せてもらおうにも伝手も何もない二人にはどうすることもできなかった。
そこへ、悪魔の取引を楽歩は持ちかけた。
『船は私が手配しよう。許可証に至っても、私の人脈を使えば役人は簡単に許可を出す』
『何故、そこまで・・・』
『これはお前たちの為だけでもない。私だって近く戦乱に巻き込まれる事を知りながら、巻き添えで死ぬのは御免こうむる。ならば、まだ唐の文化権威が幅を利かせられる日本に移り住む方が、都合がいい』
気に入りの煙管を燻らせながら、楽歩は艶然と微笑む。
しかし、勇馬を見据えたその目は笑ってはいなかった。
『いわば、これは私の計画にお前たちを便乗させてやろうという話だ。もちろん、お前たちが望む学問も全て私は提供してやれるし、下劣な官吏たちの魔手からも守ってやれる。ただし・・・』
皆まで言う必要はなかった。
楽歩が見返りとして求めているものなど簡単に検討が付く。
だが、この条件を飲む以外どうすることもできなかった。
勇馬はその場に恭しく跪いて口頭礼を取った。
『お前は、私の僕だよ。勇馬・・・』
 
(海人兄さん・・・)
神斗宮の庭を眺めながら、勇馬は唯一楽歩の毒牙を免れた海人に思いを馳せる。
今日は宴の二日目、明日になればまた宿舎に帰ってくるが、もし、その場に勇馬がいなければ心配することだろう。
宿舎に戻ることを禁じられた勇馬は置手紙を残さなかったことを後悔した。
海人は情に厚い、優しい人柄だ。勇馬がこんな扱いを受けて黙っているとは到底思えない。
それでも、無鉄砲に飛び込めば楽歩の餌食にされてしまうだろう。
取引のための慰み者になるのは自分一人だけでいい。
 
(どうか・・・。僕の事は心配しないで・・・)

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